石泉印泥 中級帯の押し比べ|箭鏃 超箭・朱磦・雲峰朱磦・黄磦(黄口)
提出作品に、耐える4種。
箭鏃 超箭・朱磦・雲峰朱磦・黄磦(黄口)。
朱砂系と朱磦系が交差する、いちばん迷う価格帯です。
厚み・被覆力・折光の三軸で整理しました。
こんにちは、渋谷の篆刻用品専門店「アジア篆芸(Asia Seal Art)」店長です。
入門帯を一顆使い切って、次に進むとき。ここが石泉印泥で最も選択に迷う帯です。理由は単純で、朱砂系と朱磦系という色の別軸が、ここで交差するから。等級の階段を上がるだけでなく、色の系統も選び直すことになります。
💡 先に結論
光明を使ってきた方が次に進むなら箭鏃 超箭。細朱文・工筆画で黄口の朱が欲しいなら朱磦。黄口を試してみたい段階なら雲峰朱磦か黄磦から。
朱砂系と朱磦系は上下の関係ではありません。作品の色に合わせて選ぶ横並びの選択肢です。
1. 箭鏃 超箭──光明の進階版
朱砂系。位置づけは明快で、光明の上位版です。ある程度の使用経験がある方が、提出作品と日常の練習に併用する想定で作られています。
印色は正紅に近く、印蜕が乾き切ると色調が沈んで低調になります。伝統的な印泥の色彩体系でいう「濃厚」「沈着」の質感です。

光明との差は押せばすぐ分かります。厚み・附着力・被覆力のいずれも上。手触りは同格の朱磦と比べると柔らかく、やや湿り気があって弾力がある。だから紙面で盛り上がりやすく、明確な厚みが出ます。
弱点も明確です。折光(艶)は宣和・漂浄には及びません。ここが次の階段になります。なお本品は乾燥調整(調干)に対応しており、整紙整拓の印屏、原拓印譜、原拓散頁の制作にも使えます。ご希望の場合はご注文時に備考欄へご記入ください。
2. 朱磦──黄口の本格派
朱磦系。雲峰朱磦と黄磦の進階版にあたる品種で、この帯の朱磦系では最上位です。
印色は橘紅、泥体は橘黄色。乾き切ると色澤が沈穩・低調になり、「濃厚」「沈着」の質感に落ち着きます。派手な橙ではありません。

石泉の朱砂系と比べると、手触りは硬めでやや乾いています。そのぶん紙面に出る厚みは雲峰朱磦・黄磦より優り、附着力・被覆力も一段上。ただし折光は宣和・漂浄・貢品などには劣ります。
印風・書風・画風への兼容度が高いのが特徴で、連史紙に押したときの効果が最も理想的です。整紙整拓の印屏、原拓印譜、原拓散頁の制作に向き、押した印蜕は近距離での鑑賞に耐えます。生宣にも使え、工筆花鳥画や書の小品にも合います。
3. 雲峰朱磦──黄口への入り口
朱磦系の入門にあたる位置づけです。上位の朱磦と比べると、紙面での厚み・附着力・被覆力はいずれも控えめ。ただし価格帯が入門帯に近く、「黄口の朱がどういうものか」を確かめる一顆としては合理的な選択です。朱砂系しか使ったことがない方が、細朱文や工筆画との相性を試すのに向きます。

4. 黄磦(黄口)──練習と修正のための一顆
こちらは朱磦色を模したタイプです。人工合成朱砂が基底色を担い、補助顔料を加えて調合することで、成品の色澤を橘紅に寄せています。

「濃厚」「沈着」を追求する朱磦と比べると、色澤はより鮮紅で飽満、目を引きます。その代わり細やかさと附着力は劣り、被覆力・厚みも弱め。泥体の硬度がやや低くふっくらしていて、わずかに湿り気があります。
用途がはっきりしている品種です。連史紙での効果が最も良く、篆刻の際に印章を修正しながら習作を押して残す用途、原拓散頁の制作、工筆花鳥画や書の小品への押印に向きます。
⚠️ 「黄磦(こうひょう)」と「黄碥(こうへん)」は名称が似ていますが、別の品種です。ご注文の際は漢字をご確認ください。ご不明な場合はお問い合わせいただければお調べします。
押し比べ早見表
| 品種 | 系統 | 厚み・被覆 |
|---|---|---|
| 箭鏃 超箭 | 朱砂・正紅寄り | 厚い/被覆 優 |
| 朱磦 | 朱磦・橘紅 | 厚い/被覆 優 |
| 雲峰朱磦 | 朱磦・橘紅 | 中/被覆 中 |
| 黄磦(黄口) | 朱磦色を模した型・鮮紅 | やや弱い |
※折光(艶)はこの四品種のいずれも、宣和・漂浄には及びません。折光を最優先される場合は漂浄の記事をご覧ください。
この記事で紹介した印泥
- 石泉印泥 箭鏃 超箭|光明の上位版
- 石泉印泥 朱磦|黄口の本格派
- 石泉印泥 雲峰朱磦|黄口への入り口
- 石泉印泥 黄磦(黄口)|修正・習作の記録に
よくあるご質問
Q. 朱砂系と朱磦系、両方持つ必要はありますか?
作風が一つに定まっているなら一系統で足ります。ただし白文の大印と細朱文の小印を両方彫る方、書と工筆画の両方に落款を入れる方は、二つ持つと表現の幅が変わります。朱磦は墨の濃い部分に押しても印文が負けにくいので、国画をされる方には特に効きます。
Q. 調干(乾燥調整)とは何ですか?
印泥の油分を調整して乾き気味に仕上げる処理です。整紙整拓で印屏を作る際、油が紙に染み出るのを抑えられます。箭鏃 超箭は調干に対応していますので、必要な場合はご注文時に備考欄へご記入ください。
Q. 連史紙とは何ですか?
薄手で靭性があり、表面が滑らかな紙です。印譜の制作に伝統的に使われてきました。この帯の朱磦系はいずれも連史紙で最も良い結果が出ます。厚く粗い紙をお使いの場合は、朱砂系のほうが向きます。
シリーズ記事
- ① 石泉印泥とは?|耘萍印泥・全系列と等級の対照表
- ② 入門帯の押し比べ|光明・美麗・桜・古色
- ③ 中級帯の押し比べ|この記事
- ④ 清宮印泥復刻の四品|貢品・珍品・精品・上品
- ⑤ 古法特製 漂浄|折光で選ぶ最上位
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